monthly oystergate 2006-06 


 

*Summary in English

香港パスポート事情

 

複雑な現状・・・

1997年以前、香港人の知人にパスポートを見せてもらったことがある。
パスポートの表紙にはイギリスの国章が型押しで入っていた。
最近、その知人の妹が来日したので、現在のパスポートはどうなっているのか尋ねてみたところ、なかなか不思議なことになっていた。

彼女は香港生まれの30才代前半。そのため、以前からイギリスのパスポートを持っている。さらに今は、中国領土としての香港(HKSAR)のパスポートも持っている。旅行先の国によってふたつを使い分けるという。
パスポートがふたつあるだけで驚きなのに、イギリス、中国領香港、どちらのパスポートもお金さえ払えば永久に更新可能なのだそうだ。

ただし、これは特例なのよ、と彼女が言う。

 

「BDTC」から「BNO」へ

1997年、香港はイギリス領から中国領になった。
その時点で、それまでのイギリス属領市民(BDTC=British Dependent Territories Citizen)パスポートは無効になった。
しかし入れ替わるように、海外在住イギリス国民(BNO=British National Overseas)パスポートが発行された。
BNOパスポートとは何なのか?

香港には文化大革命の際に中国本土から逃げてきた人が数多く住んでいる。
「中国に返還されたら、香港はどうなる?」
「あの文革の悪夢が蘇るのか?」
中国政府による政治を恐れて海外へ脱出した人々も数多くいた中で、イギリス政府が返還後も香港住民に干渉できるように新たに生み出した苦肉の分類がBNOなのである。

BNO=海外在住イギリス国民、と言うが、それは単なる名称に過ぎない。
既に植民地ではないため「イギリス属領市民」と呼べなくなったので名前を変えた、という程度だろう。
このパスポートを持っていても、イギリスに無条件で移住できるわけではない。
保証されている権利も真のイギリス国民とはかなり違う。
そんな効力の曖昧なパスポートでも、返還前の混沌とした香港では魅力的に映ったはずだ。
中国国内の政治に不測の事態が起こったとき、このパスポートがあれば、まがりなりにもイギリス国民として海外に脱出できるのだから。

このBNOパスポートは、申請期限である1997年6月30日の段階で香港住民であることが証明できれば誰でも取得できた。(※1)
一旦取得すれば、一生更新できる。
ただし、あくまでも申請制なので、例え香港生まれの香港育ちであっても、期限までに申請しなかった人には今後も取得するチャンスはない。
ましてや、申請期限以降に生まれた子供たちは論外である。
くだんの友人の4才の姪も、親はBNOパスポートを持っているが、自分はHKSARパスポートしか持つことができない。

 

身分証明がいっぱい

身分証明については、さらに面倒臭い事情がある。

HKSARパスポートがあれば、台湾にも行ける。
台湾は中国の一部、といいつつ、この点では外国扱いになる。(※2)

しかし、香港住民が中国本土へ行く場合は国内移動とみなされ、HKSARパスポートでは入境できない。(※3)
前出のBNOパスポートに至っては、中国政府は存在すら認めていない。
かといって中国への入境は自由ではなく、香港住民は中国公安局が発行する「回郷証」(Home Return Permit)というIDカードが必要になる。

回郷証は香港の居住権があれば基本的に取得でき、有効期間は10年(18才以下の場合は3年)。
これがあれば、繰り返し中国へ入境できる。

香港の人々は他にもIDカードを持っている。
外国人でも香港に180日以上滞在する場合は取得する必要がある「香港身分証」、そして香港の永久居住権を示す「香港永久性居民身分証明」である。
18才以上の香港住民は、中国からの不法移民対策として生まれたこのIDカードを常に携帯しなければならない。取り締まりのため、街中で警官にこれらのカードの提示を求められることがあるからだ。

ここまで書いただけで、文中に※印の註が3つもある。
それくらい、特例だらけ、詳しく説明しないとワカンナイ状況なのである。
調べれば調べるほど、政治に翻弄される香港の不可解なシステムについて、思い知らされる。

 

波に乗っていこう

夕暮れ時、九龍公園とワトソンズの角に立ってみる。
バスやら人やら食べ物やら何やらから立ち上る熱気と喧噪にぼうっとする。
そんなエネルギー、どこから湧いてくるの?と尋ねたいほど、人々は活気に溢れている。

エネルギッシュな香港の人々の姿を見ていると、システムはともかく、人々は「翻弄」されていないのかもしれないと思う。
どこかから波が来たら、それに乗って、行けるところへ行けばいい。
大事なのは、いかにうまく波に乗るかであり、無理に抗って翻弄される必要はない。
香港の人々には、そんな気質があるように思える。

最初に書いた知人の妹も、まるで何かのくじにでも当たったかのように、ダブルパスポートであることを自慢していた。
香港人とは、実にたくましい人々なのである。

 

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※1 実際は、出生年によって締め切り日が少しずつ異なっている。

※2 台湾に入るにはビザではなく「入境証」が要る。これは3ヶ月間有効で2回まで入出境でき、1回の滞在は最大14日まで。手数料は55香港ドル、およそ790円。
入境証が事前に申請できなかった場合は、台湾到着時に1回の入境のみに有効な一時ビザを申請できる。こちらも滞在は最大14日まで。手数料は200台湾元、およそ700円。
観光旅行で一度行くだけなら、現地で一時ビザを取得した方が楽だろう。
ビジネスで何度も訪台する人が「入境証」を申請するのだとしても、入出境2回限りではあまりメリットがないのではと思うのだが、どうだろうか。

※3 例外として、中国政府に対する反政府活動を行った者などに対しては回郷証が発行されない。それらの人々が本土に行く場合、HKSARパスポート所有者として、その都度ビザが発行される。

註釈中の香港ドル、台湾ドル等の換算レートは2006年6月のものです。


参照

香港特別行政区政府 入境事務局(正しくは「局」は「処」の旧漢字)
http://www.immd.gov.hk/ehtml/hkid.htm#type

台湾入出境管理局ウェブサイト
https://nas.immigration.gov.tw/

ウィキペディア英語版 香港IDカード
http://en.wikipedia.org/wiki/Hong_Kong_Identity_Card


 

So complicated! --- Passports in HK

Did you know that many of adult residents in Hongkong hold two kinds of passports?

One is HKSAR (Hongkong Special Administrative Region) Passport, and another is BNO(British National Overseas) passport.
Both are valid.
Due to complicated government systems and laws of HK, it happened.


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